谷村有美を再評価

ただ,あらためて聴いてみるとやっぱり良い曲は良いし,独特の「クリスタルボイス」と呼ばれた歌声は,決して「こぶしの効いた巧さ」はないが,「クリスタル」という言葉の硬質なイメージとうらはらに,しっとりと伸びやかに,心地よく耳に入ってくる.

歌詞も叙景的な描写をうまく織り込み,聴いているうちに曲のイメージの世界にいつの間にか入り込めるものが数多い.たとえば「友達」「たいくつな午後」そして「Pajama days」.扇情的な「泣かせ」の曲は何も考える必要がないのでわかりやすいが,聞いてて疲れるし飽きる.叙景的な曲は,曲の心象を理解するために想像力が必要となるが,入り込んでしまえば曲の世界の中でたゆたうことができる.聞き疲れない歌声もあいまって,するめのように何度も味わうことができる(すべての曲がそうであるわけではないし,はっきり言ってどーでもいー曲もたくさんあるけど).

しかし,谷村有美の曲はコンスタントに売れつつも大ヒットしたものは無い.でも,これはある意味で当然のことかもしれない.大ヒットするためには,何も考えさせずとも大衆の心を掴めるような「わかりやすさ」と印象を残せるようなアク,もしくは大量の宣伝が必要になる(もちろん例外はある).何度も聴いて味わってこそ,なんていう曲は現代の商業音楽のような消費財としては失格なのだろう.

…ま,ほんとにそーかどーかはわかりませんが.谷村有美にもわかりやすい曲はいっぱいあるし.個人的にはそのほとんどはどーでもいー曲だけど,でもそちらのほうが売れるんだよね.やっぱり.

どちらにしろ,谷村有美はもうちょっと評価されてもよかったかな,と思います.中古CD屋さんで見かけたら,試しに買ってみてもいいかもしれません.何度か繰り返して聴いているうちに,私が上で書いたことをわかって頂け…たらいいな.